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第二章「斬られた影」 第一話 影、廊下に佇む
剣の稽古を終えた若い隊士たちが囲炉裏を囲んでそっと声をひそめる。
「昨夜、切腹の間の縁側を黒い影が横切ったそうだ」
「いや、それだけじゃねえ。誰もいないはずの床の間から濡れた音が……」
ひとしきり噂が飛び交うが、すぐに全員の顔が土方副長のことを思い出したように引き締まる。去る夜制定されたばかりの新たな法度――“奇矯妖怪不思議の説を申すべからず”――。そのため、誰ひとり大声で語ることができない。

江戸川ユキト
2025年10月15日読了時間: 2分


第一章「旗守の亡霊」 最終話 「新たな法度、誓いの夜明け」
夜明け前、宜本京雲(よしもときょうん)はまだ静かに千両松に立ち尽くしていた。谷太郎から受け取った隊旗をしっかりと抱きしめ、その重さと温もりをかみしめていた。
もう恐怖も躊躇もない。旗には、仲間たちの「帰りを待つ」心、そして谷太郎の「いなくならないでほしい」という切実な想いが、確かに息づいていた。
──何かが自分の中で変わった。
夜を通して見たもの、感じたものは、ただの幻ではない。
京雲の胸には今、誰にも語れないほど澄み切った“霊を見る力”が宿っていた。この力こそが、谷太郎の願い、谷太郎の生きた証。

江戸川ユキト
2025年10月14日読了時間: 2分


第一章「旗守の亡霊」 第三話 「旗守と目覚め」
その夜――月は厚い雲の向こうに隠れ、屯所の闇はいっそう深くなっていた。
宜本京雲(きょうん)は何度も浅い眠りから覚め、やがて、見えない力に導かれるまま布団を抜け出した。
無意識のうちに足は千両松へ向かっている。草を踏むたびに、寒気にも似た緊張が全身を包み込む。
月影も届かぬ戦場跡、空気は重く冷たい。
――そこにあった。
紫の隊旗がゆらめく下、土に膝をつき、ひっそりと佇む谷太郎の影。
「谷太郎……?」
旗の下で彼は、虚ろな眼でぼんやりと遠くを見ていた。
「……帰れなかった……みんな……約束を守れなかった……。でも、ここでずっと待つって、誓ったんだ……」
京雲は思わず一歩踏み出す。
(なぜ俺なんだ。なぜ、お前の声が俺にだけ響く?)
疲れた声で、谷太郎は旗を差し出す。
「……お前だけは、俺を“いなかったこと”にしなかった。頼む、京雲……この旗と俺の思いを、お前に託したい」
その瞬間、谷太郎の手から旗が滑り落ち、まるで霧が流れ込むように眩い残響が京雲の胸に走る。

江戸川ユキト
2025年10月13日読了時間: 2分


第一章「旗守の亡霊」 第二話 「囁きと動揺」
第一章「旗守の亡霊」 第二話 「囁きと動揺」
#旗守の亡霊 #幕末 #新選組 #怪談 #雪洲PRO #江戸川ユキト
屯所の夜は重たく深かった。戦の興奮が消えた後の静けさに、隊士たちはそれぞれの小さな不安を隠していた。
囲炉裏を囲んで座る一群の中――宜本京雲(よしもときょうん)は、湯を口に運びながらふと皆の話に耳を傾ける。
淡く灯る火のそば、隊士の一人が誰にも聞こえぬほどの小声で言う。
「……昨日の夜、千両松で谷太郎さん、旗と一緒に……立ってたんだ。戻ってきた誰かが見たって」
「またその話かよ」と別の隊士が気まずそうに笑うが、誰も本気で笑えない。
重苦しい静寂が落ち、囲炉裏端の温度が下がる。

江戸川ユキト
2025年10月12日読了時間: 2分


江戸川ユキトが送る幕末オマージュ新作シリーズ配信開始!第一章「旗守の亡霊」
舞台『新撰組日記 壬生のほたる』は新撰組が一躍表舞台に躍り出た[池田屋事件]を10日前からさかのぼって描く物語。この物語にちなんで、クラウドファンディング終了の10日前の本日から配信していきます。
いまだ謎に包まれる、局中法度に加えられた新条。
“奇矯妖怪不思議の説を申すべからず。”
この新条が生まれた物語を独自の新手から想い描きます。
sessuepro
2025年10月11日読了時間: 1分


第一章「旗守の亡霊」 第一話 「旗の下で待つもの」
慶応四年、春。
千両松――墨を流したような薄闇と、そこに広がる草の匂い。空には僅かな夕陽が残り、砲火の哀しい残響がいまだ風に混じる。
小林谷太郎は、戦が終わったばかりの静かな野に佇んでいた。
誰もいないはずの場所だ。かつて励まし合った仲間たちは、いまや散り散りとなり、戻る者もいない。それでも彼は「誠」と大書された隊旗を掲げ、帰りをただ待っていた。
「ここで待つ。必ず旗の下で再会する。……それが俺の役目だ」
谷太郎の手には土と血がついていた。
夕陽に紫が混じる隊旗が、静かに揺れる。
谷太郎は膝を地につき、耳をすます――戦場に散った仲間たちの声を聞くために。
そして夜が訪れると、何度も何度も分かれた者の名を心の中で呼び続けた。
自分がずっとここで待てば、いずれ帰ってくる――そう信じて。

江戸川ユキト
2025年10月11日読了時間: 2分
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