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第一章「旗守の亡霊」 最終話 「新たな法度、誓いの夜明け」

 

 

夜明け前、宜本京雲(よしもときょうん)はまだ静かに千両松に立ち尽くしていた。谷太郎から受け取った隊旗をしっかりと抱きしめ、その重さと温もりをかみしめていた。

もう恐怖も躊躇もない。旗には、仲間たちの「帰りを待つ」心、そして谷太郎の「いなくならないでほしい」という切実な想いが、確かに息づいていた。

 


──何かが自分の中で変わった。

夜を通して見たもの、感じたものは、ただの幻ではない。

京雲の胸には今、誰にも語れないほど澄み切った“霊を見る力”が宿っていた。この力こそが、谷太郎の願い、谷太郎の生きた証。

 

朝日が地平線を赤く染めたころ、京雲は静かに旗をたたみ、そっと胸に仕舞った。

心の奥には、もうひとつ、谷太郎の「ありがとう」という微かなささやきがいつまでも響いていた。

 

屯所に戻ると、隊士たちの間には昨夜の重苦しい噂もなく、あの怪異は誰の記憶からも消え去りつつあった。ただ、京雲だけが、それが誰かの必死の祈りによって成し遂げられたことを知っていた。

 

その夜、幹部たちは静かに集まり、土方歳三が新たな法度を静かに読み上げる。

 

「これより、局中法度に新条を加える。

“奇矯妖怪不思議の説を申すべからず。”

士気を保つため、隊内でこうした話は堅く禁じる。」

 

場は粛然とし、誰も逆らえない力が張り詰めた。

しかしその裏で、京雲の中に灯った新たな“見えざる意志”はさらに強さを増していた。

谷太郎の想いとともに生まれたこの能力を、今度は誰かのために使う番だ――

 

旗は静かに風に揺れながら、「誠」という名の下に、これからも見えない誰かを照らし続ける。

そう信じて、宜本京雲は己の役目を静かに胸に刻み、朝の光の中へと歩き出した。

 

幕末の夜明けに、ひとつの約束と新たな禁忌が生まれた。

だがその影では、京雲と「誠」の旗が、次なる〈不思議〉の夜を待っていた。

 

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