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第二章「斬られた影」第二話 夢と恐怖のあいだ


 

 

夜更けの屯所では、雨だれの音だけが眠れぬ者たちの鼓膜を叩いていた。

宜本京雲(よしもときょうん)は浅い眠りのなか、いくたびも悪夢に浮かされていた。

 

夢の中――

冷えきった廊下がどこまでも続く。灯の消えた切腹の間の前を、誰かがすう、と横切る気配。しめり気を帯びた黒い影。

それは背中をくの字に曲げ、恨みでも痛みでもなく、ただただ深い寂しさを引きずっている。

 

「……俺は、まだここにいる……」

 

低く、濡れた声が遠く響く。

京雲が立ち尽くすと、闇の奥で影が振り返った。

その顔は、輪郭さえぼやけて、ただぽっかりと口だけが動いている。

 

目が覚める。

額にはじっとりと汗。胸の奥に重りが乗ったように苦しい。

 

京雲は乱れた呼吸を整えて、寝床の掛け布団を押しのける。

“見える力”を授かってからというもの、夢と現の境目が薄くなった気がする。

谷太郎の想い――“誰かの声を見捨てぬ者”として、この恐怖もまた己の責任だと京雲は理解していた。

 

そのとき、ふと障子の向こうから微かな足音。

廊下で寝間着姿の若い隊士と行き遭う。彼は青ざめた顔で、しがみつくように呟いた。

 

「きょうさん……夢で、あの影に呼ばれた気がして――“傍に来てほしい”って……」

「大丈夫だ、俺も声を聞いた。今夜はお前に近寄らせやしない」

 

京雲はそう優しく言い、彼の背中をぽんと叩いた。

飄々とした語り口、だが眼差しだけは静かな鋭さを帯びていた。

 

外は、ますます深い闇。

京雲は、今夜こそ己が“あの影”と正面から向き合わなければならない、という確かな予感を、心の底で噛みしめていた。

 

(きっと闇の中、あの影は“名もなき嘆き”として、まだ誰かを呼んでいる――)

 

新たな力を手にした彼の覚悟と、言葉にできない恐怖。

それが、次の瞬間の静かな戦慄へとつながっていくのだった。

 

 

 

※本作品は幕末応援企画で幕末をオマージュした独自のフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 

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